







◇ディレクター:阿部朋也◇
そもそも私はサヨさんを取材しようとしていたわけではなく、いつ取り壊されるかわからない昭和の始めに建てられた無人駅をカメラに収めようとしていました。
しかし、全く違う被写体を追っていくことになるのです。
無人駅では地元の主婦たちが集まり、惣菜作りをしていました。近くの温泉施設などに売り、年一回旅行に行くのが楽しみと、リーダーのサヨさんは、話してくれました。
その後偶然、茶畑の間を歩くサヨさんを見つけました。一人暮らしの老人を訪ね、原価であの惣菜を売り歩いていたのです。「この年になってお金より他人の笑顔が元気の源です。」と重いタッパーを持ちながらサヨさんは話してくれました。この時から私は小さなカメラ一台を持ってサヨさんに会うために無人駅のある村に通い詰めることになりました。
忘れられないのはあるお年よりが笑った瞬間です。山本茂さんは、サヨさんが訪問しても無愛想でした。山本さんは頼りきりだった奥さんを突然亡くし、気難しくなっていたのです。サヨさんは口を開こうとしない山本さんを何回も訪ねました。そしてある日、山本さんは突然亡くなった奥さんのことを話し始め、サヨさんに笑顔を見せたのです。
取材を通して、人のいない駅を訪ねたことをきっかけに、人間同士が心を通わせる瞬間に居合わせることができました。大切な話は決して大きな町だけで繰り広げられる訳ではないと感じました。