秋田県大仙市大曲(だいせんしおおまがり)。約3万7000人が住むこの街は、年に一度住む人の20倍、80万もの人で溢れかえる。人々のお目当ては全国花火競技大会、通称大曲の花火だ。大会イチの花火師には内閣総理大臣賞が贈られ、この花火だけを目当てに多くの客が集う、まさに日本一の花火大会だ。この花火の街で、「型物(かたもの)」と呼ばれる特殊な花火玉を得意とする花火師がいる。内閣総理大臣賞3度の受賞を誇る異才花火師、今野義和さんだ。
型物とは、夜空に図柄や文字を描きだす花火玉のこと。今野さんはいう。「型物はピエロ。場を和ませ、子供たちの歓声を誘う。」見る人に笑顔を届ける花火師だ。この冬、今野さんの元に長崎で開かれている花火師の世界大会への出場オファーが届いた。見る人を笑顔にする今野さんの花火は、世界一に輝くことができるのか。
番組では、世界大会に向け準備を進める今野さんに密着。普段なかなか見ることが出来ない花火の仕込みや打ち上げ準備など花火の舞台裏を撮影するとともに、笑顔の花火にこだわる今野さんの想いにも迫る。
取材後記
ディレクター:梅村康史(秋田放送)
花火業界は、まさに「生き馬の目を抜く」世界です。国内業者間のみならず、近年は海外への技術流出も散見されるそうで、玉の仕込みに使う治具や玉の中に置く星の留め方、玉に装着して打ち上げ方向を制御する紐の素材等々、仕込みの現場も打ち上げ現場も、企業秘密だらけ。まともに撮ればモザイクだらけです。
今回番組にご登場いただいた今野義和さんは「日本一の型物花火師」と呼ばれる業界のトップランナーです。だからなおさら、工場にカメラが入ることへ神経を尖らせます。番組でお伝えできた今野さんの卓越した花火技術は、ほんの触りです。
ただその分、今野さんが花火に注ぐ情熱と笑顔にこだわる信念とを、視聴者の皆様にお届けしようと番組作りに励みました。 今野さんの高い技術とアイディアがいっぱい詰まった花火の魅力を、お茶の間で楽しんでいただければこれ幸いなのですが…。
さて、特殊な技術の上に成り立つ花火作りは、例にもれず技を紡ぎ続けることもまた、大きな課題の一つです。だから今春帰郷した今野さんの長男貴文さんがどんな花火を上げるのかー。この夏の大曲の花火、例年以上に必見です。