#13 命を守りたい ~高知発・防災ものづくり奮闘記~

2015年7月19日(日)(テレビ朝日 放送) 高知放送制作  協力 文部科学省/独立行政法人 中小企業基盤整備機構

南海トラフ地震で深刻な被害が想定される高知県は、地震への備えと連動させて防災関連産業の振興に力を入れている。

chikara13-4.jpg 高知市にある強化プラスチック(FRP)加工会社「土佐レジン」。従業員は7人で、漁船の改修や養殖用の水槽、足湯などを幅広く手がけている。「FRP」とは、ガラス繊維など布状の繊維素材を液体ポリエステル樹脂で固めたモノ。この技術を生かして土佐レジンでは救助や避難用の防災ボートを作っている。防災ボートは軽量かつ耐久性に優れ、工具不要で誰でも簡単に組み立てることができる。

chikara13-2.jpg土佐レジンの小川宏社長(62歳)。2010年、災害時に必要な風呂を作ろうと考え、移動式の風呂を開発した。翌年3月、東日本大震災が発生。小川さんは移動式の風呂を軽トラに乗せ、17時間かけて被災地へ向かった。そして2か月間、宮城県内で入浴支援のボランティアを続けた。被災者たちの「ボートがあればよかった」という声から防災ボートのアイデアは生まれた。

小川さんが命を守るものづくりに励むのには理由がある。小川さんは46歳の時、咽頭がんが見つかった。その後、4年間で3回再発し、3度の手術。脳にも転移し、医師から余命3か月を宣告された。さらに3年前には妻の光子さんが胆管がんで亡くなった。長い闘病生活を送るなかで、抗がん剤による副作用でむかむかする気分を紛らわすため、かつて趣味にしていたギターを手に取り、大好きなザ・ベンチャーズの曲を1、2週間ごとに1曲ずつマスターするようにした。目標を持ったことで生きる希望がわき、発病から12年後、奇跡が起きた。体内からがんが消えていたのである。病を乗り越えて、小川さんが胸に刻んでいるのは「この世の中のために役立てることをしなくてはいけないということで生かされている」という思いだ。

6月、小川さんは4年ぶりに宮城県東松島市を訪れた。入浴支援をした体育館では、移動式の風呂に入ったという住民たちと出会った。そのうちの一人、妊娠中の妻が一番風呂に入ったという齊藤将仁さん。背中におぶっているのは当時、まだおなかの中にいたという男の子。元気でたくましい子に育って欲しいと「龍馬」と名付けられた。翌日、小川さんは龍馬君の母親・愛さんと会うことができた。「何週間ぶりかに入浴できたので生き返った。龍馬もお腹の中で喜んでいた」と感謝する愛子さんを前に、小川さんは「命をつないでいかないといけない。来てよかった」と決意を新たにした。

chikara13-5.jpg いま小川さんが製作に力を入れているのは「農業用の重油タンク」。既存のタンクは地震や津波に弱いことを知り、倒れても重油が漏れないタンクを作った。命の大切を知る小川さんが防災製品づくりに情熱を注ぐ姿を描く。

編集後記

ディレクター:中嶋淳介(高知放送)

防災製品を手がける「土佐レジン」を初めて取材したのは2年前の3月。埃と薬品の匂いに包まれた小さな町工場で、笑顔で出迎えてくれたのが小川宏社長でした。この時、小川さんが東日本大震災直後に宮城県へ移動式お風呂を運び、避難所で入浴支援をしたこと、実は小川さん自身ががんで余命3か月と宣告され、命の危機と向き合ってきたことなどを知りました。笑顔を絶やさない小川さんが唯一、被災された方々を思い出しながら声を詰まらせる様子を見て、こんな人をきちんと紹介できる機会はないものかと思い続けていました。

宮城県東松島市では小川さんの移動式風呂に入浴したという方々に出会うことができました。一番風呂に入ったという母親のお腹の中にいた赤ちゃんは、この夏4歳になります。「命はつないでいかないといけない。」その小川さんの言葉にものづくりに込めた思いが詰まっています。防災製品をつくる技術はもちろん、「人が人を思う優しさ」や「苦難のなかで前向きに生きる強さ」も「日本のチカラ」だと小川さんに教えていただいた気がします。そんな思いが少しでも伝われば嬉しい限りです。

番組情報

◆土佐レジン
(農業用重油タンクについて)
【電 話】088-837-7525

◆ケイウッド
(土佐レジンの「防災ボート」・「浄水装置」の総代理店)
【電 話】088-855-8575

◆高知丸高
(津波避難シェルター)
【電 話】088-845-1510

◆新高知市観光遊覧船
【電 話】088-834-3020

ご意見・ご感想

皆さまからのご意見・ご感想をお待ちしております。
お寄せいただいたコメントにはすべて目を通しておりますが、必ずしも掲載されるものではございませんのでご了承ください。
なお、企画提案、商品宣伝、イベント告知等に関する投稿は固くお断り申し上げます。

※ 記入欄に、お住まい(都道府県)もご記入いただければ幸いです(任意)