
宮城県名取市閖上(ゆりあげ)。仙台市の南に位置し、昔から海とともに生きてきた町だ。ここは、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域。震災から7年半。一歩ずつ、復興の歩みが進んでいる。そんな閖上で、去年から新たに水揚げが始まった海の幸がある。それは「シラス」。これまで福島県沖が北限とされてきたが、去年、閖上でも本格的な漁がスタート。復興の切り札として、「北限のシラス」を名物にしようと町が動き出した。

2016年。震災後、整備された水産加工団地に新工場を建てた「鈴栄」。元々は、福島県浪江町請戸で120年もの歴史を誇る老舗。活魚の卸業、水産加工品の製造を生業としていた。しかし請戸海岸は、福島第1原発からわずか6kmほどのところ。津波で工場と自宅は被災。故郷を離れることとなった。5代目社長の鈴木健一さん(51)。
「やっぱり海からは離れられない…。」
家族から反対されながらも、縁もゆかりもない宮城で、事業再開に踏み切った。
シラス漁のシーズンは7月~11月。震災後、漁師たちの新たな収入源になると期待されている。この道50年のベテラン漁師も、シラス漁に関してはまだ2年目、手探り状態。この夏、そんな漁師のもとに、隣県福島から助っ人漁師が初めて漁の仕方を教えに来た…!

今年で2度目の開催、「シラス祭り」。地域の水産加工会社が立ち上がり、「北限のシラス」をPRする祭りで、鈴木さんは新商品の試作品をお客さんに振る舞おうと計画していた。斬新なアイデアが欲しい!と地元の農業高校にオファー。高校生たちとコラボ商品を開発中。3年の祭城 武(さいき たける)さん(17)。彼が所属するのは、地域の特産物を研究している「農業経営者クラブ」。実は去年、「北限のシラス」を使った創作おにぎりが、高校生の料理コンテストで全国優勝!鈴木さんは、そんな彼らとともに、「北限のシラス」を盛り上げようと企てていた。
編集後記
ディレクター:小林なつ子(東北放送)
「シラス」は、赤ちゃんの離乳食に最適―。
私自身が子育てをする中で、「シラス」を好んで食べるようになったことが、取材を始めたきっかけでした。シラス漁は一体どのようなもので、ちりめんはどうやって作られているのか…もちろん初めて知ることばかり。取材で出会う皆さんは、情熱をもって「北限のシラス」を盛り上げようと奮闘していました。
「鈴栄」5代目の鈴木健一さんは、商売人としての誇りを持つ、義理と人情にあふれた熱い男。影から社長を支える奥様 典子さんは、凛とした強さをお持ちです。娘さんや息子さんも一緒に工場で働いています。鈴木家の伝統、真心のこもったちりめんは絶品です。
そして鈴木さんと共に新商品開発に挑む、宮城県農業高校の生徒たち。今回番組に登場する3年生の皆さんは、3.11当時、小学4年生でした。彼らは町の復興に関わる大切さを学ぶと同時に、「北限のシラス」をPRする活動を後輩に引き継いでいきたいと考えています。
それぞれが実現したいと願う希望や夢。それに向かって、今、自分ならばこうする。その納得のもと、閖上の皆さんは毎日を一生懸命生きています。番組を見終わった後に、閖上に行ってみたいな…そう感じてもらえたら嬉しいです。