#166 いつか空から花を見て~桜に託した故郷への想い~

2019年2月2日(土)(テレビ朝日 放送) 福島テレビ制作 協力/文部科学省 総務省 独立行政法人 中小企業基盤整備機構

桜
東北地方の南部にある福島県いわき市。市街地から少し離れた里山にたくさんの桜を植える計画があります。「いわき万本桜プロジェクト」では99という数字が中国で無限や永遠を意味するとことから9万9千本の桜を植えることにしました。年に400本のペースで植えても約250年かかる壮大な計画です。

プロジェクトのリーダーは志賀忠重さん(68)。明朗な人柄と大きな夢に心惹かれた人たちが全国から里山にやってきます。桜は人々の希望の象徴です。
「みんなが笑顔になりますように」
「子どもが健やかに育ちますように」…
いろいろな想いが込められています。

ブランコ
プロジェクトが始まったきっかけは2011年に起きた東日本大震災と原発事故。故郷が変わっていく様子を目の当たりにした志賀さん。「誰もが来たくない場所なら、誰もが行きたいと思える場所にしよう」その想いを託したのが桜でした。2011年5月、僅か20本ほどだった桜…。2018年には約4000本にまで増えました。

志賀さんの日課は里山の草刈り。桜の生育を妨げないように、周囲の雑草を刈り取っています。しかし里山全体の草刈りになると、志賀さん一人ではまかないきれません。そこで、たくさんの仲間が志賀さんと力を合わせています。
中国出身の現代美術のスーパースター、蔡國強さんも志賀さんの仲間。蔡さんは火薬を使った独創的な作品で世界から高い評価を得ています。ふたりの出会いは約30年前に遡ります。新しい表現の場を求め、中国から日本にやってきた蔡さん。当時はまだ無名のアーティストでした。そんな蔡さんから絵を買ったのが志賀さんでした。「絵のことは分からない。でも蔡さんの人柄は分かった。」志賀さんは蔡さんという一人の人間を信じたのです。

志賀さんと蔡さん
この出会いによって運命の歯車が動きはじめます。蔡さんは志賀さんやいわきの仲間たちの協力を得て作品を発表。その作品は高く評価され、蔡さんはアメリカへと活躍の場を移します。蔡さんはいわきから世界へと躍進したのです。
蔡さんと志賀さん、いわきの仲間たちの固い絆。
その象徴的な言葉があります。
「ここの人々と一緒に時代の物語をつくる」。

そんな想いの結晶が1994年に行われた「地平線プロジェクト」です。蔡さんはいわきの仲間たちと共に海上の火薬を爆発させ、地球の輪郭を見事に描き出しました。

回廊美術館
時代の物語は今も続いています。2011年、志賀さんの想いを知った蔡さんは「いわき万本桜プロジェクト」に賛同。桜を植えるだけでなく里山にアートを提案しました。中国の回廊をイメージした、いわき回廊美術館。いわきでの出発点にもなった廃船のアート、いわきの再生を願った塔など、里山は新しい故郷へと姿を変えていきました。

そして志賀さんといわきの仲間たちは蔡さんが待つアメリカへと旅立ちます。ニュージャージーに桜が植えられることになったのです。

桜に想いを託した人々の希望、そして友情の軌跡が描かれます。

編集後記

ディレクター:齋藤 善徳(福島テレビ)

 桜花。葉擦れ。熟柿。降霜。里山は四季を通じてまばゆい景色にあふれています。穏やかな時間が流れる中で志賀さんはいろいろな話を聞かせてくれました。人生論、経営実学、冒険譚と話は多岐にわたります。豊富な知識と経験を持つ志賀さんは市井の哲学者です。9万9千本の桜を植えるという大きな夢の中にも深い意味があります。「目標を達成することよりも実は重要な事がある。それは良い時間を過ごすこと。」時代が標榜するような結果主義ではなく、プロセスの中で充実感を得ることが大切だと志賀さんは考えています。

だからこそ里山にはたくさんの人が集まってくるのです。桜を植える人々。散歩をする人々。そしてボランティアをする人々です。

いつも朗らかな佐々木さん。誠実で温かい人柄の佐藤さん。志賀さんが不在でも草刈りをする斎藤さんや鈴木さん。おいしい農産物を振る舞う桜井さん。場を和ませる品川さん。さりげなくみんなを気遣う武美さん。里山アートの部隊長根本さん。気品ある画廊の店主藤田さん。周囲を明るくする土谷さん。時代の物語をつぶさに記録してきた名和さんと小野さん。明晰な頭脳でみんなを助けてくれる池端さん。伝説のカメラマン蓮見さん。情報を発信する津田さん、川内さん、荒川さん。草刈り隊長の坂本さん。ここに挙げきれないほどたくさんの仲間が里山と桜を大切にしています。

現代美術家の蔡さんも仲間の一人。多忙にもかかわらず心の故郷いわきを訪ねてきます。「人はいつか必ずどこか知らないところに行って世界からいなくなってしまいます。でも人が創造した文化は永遠に続いていくのですよ。」蔡さんの言葉が示すように志賀さんの想いは時間や場所も飛び越えていきます。

「飛行機からみても分かるくらい、たくさんの想いが込められた桜を植えたい。」

今を生きる人々は未来に想いを馳せる。未来の人々は過ぎ去った今に想いを巡らす。いつか空から見る花は今と未来の人の心を繋いでいます。
そして、空は宙になり、世界中に広がった桜を目にする。そんな日が来るのだとしたら、すてきなことだとは思いませんか?

番組情報

◆いわき万本桜プロジェクトホームページ(近日更新予定)
【H P】http://www.siga.co.jp/iwakicherry/cherryindex.html

◆いわき回廊美術館
【住 所】福島県いわき市平中神谷地曾作7
※いわき回廊美術館の駐車スペースは限られています。
公共の交通機関をご利用して頂くことをお勧めします。

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