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お決まりの時間と曲に合わせて、すいかをお届け。自らを“すいかばか”と名乗る小林栄一さん(59)。妻と3人の子を持つ頑固オヤジです。収穫量全国最下位(令和4年産 野菜生産出荷統計:農林水産省調査)の山梨県で、独自に交配を研究し開発したすいかは13種類にも。味も食感も全て異なる13種類が誕生したきっかけは、お客さんの声。銀座にあるクラブのママから「私が明け方、寝る前に食べるすいかが欲しい」と言われて生まれた早朝すいか“夜明けのセレブ”をはじめ、冷蔵庫にすっと入りやすい楕円型の夜すいか、“戦水甘(せんすいかん)ゼブラ”など名前もユニーク。それぞれ食べるシチュエーションをイメージした時間まで設定されています。「面白そうなすいかだから買ってきてみんなで食べよう、すいかを買うきっかけになれば…」と話す小林さん。「すいかの魅力は、真ん中から切った時にみんなの声がわぁ~っとそろう瞬間。今は核家族が増え、すいかを食べたければカットしてあるすいかを買ってきて食べる。それで本当にいいのか」と問いかけます。
しかし、産地でもない山梨。すいかで生計を立てることは容易ではありません。ブランド力もない1軒の農家が得られるすいかの収入は、厳しいものでした。加えて、異常気象が招く予期せぬアクシデント。積み重なった借金は1000万…。一方、妻のひとみさん(62)は、畑作業など全くやったことのなかった農業未経験者。それでも、夫の意思を尊重し何とか家計をやりくりしながらすいか作りに奮闘。ぶつかり合いながらも夫を支えます。
毎年、収穫期の7月になると夫婦で営む“すいかばか”の直売所がオープン。こだわりは、じっくりと時間をかけてお客さんと会話をする手売り。記憶に残るすいかにしてもらいたいと食べ方の演出まで行います。そんなすいかばかの店には、2025年夏、過去最多の2500人が来店。しかし、店のにぎわいとは反対に、すいかばかには悩みがありました。家族の思い出を作ってもらいたいため作ってきたすいかなのに、自分の家族にすいかの思い出を作ってあげられていない…。夫婦ですいかを作り続けて24年。2025年秋、妻・ひとみさんの故郷である青森へ帰省することを決意。結婚以来、夫婦で帰ることはなかったという青森。手土産に持って行ったのは、この日のために残しておいたすいか。ひとみさんの母(85)と家族3人で食べるすいかの味…。すいかに全てをささげる夫婦の日常を見つめます。
編集後記
ディレクター:窪田由枝(山梨放送)
“すいかばか”の取材を始めたのは2年半前。“いいと思ったら全てやる!”という情熱に圧倒されたのを覚えています。その当時からよく口にしていた言葉が、“すいかで世の中を良くしたい”でした。
ばかがつくほどにすいか一筋。気の遠くなりそうな土づくりから始まり、味も食感も全て異なる13種類の開発。さらには、食べる時間やBGMまで決めてしまう徹底ぶりと時間をかけて熱弁をふるう手売り。効率性や生産性などまるで度外視なやり方は、おそらく今の農業に求められる理想像とは程遠いところにあると思います。それでも、すいかばかには強い信念があります。“すいかをみんなでおいしく食べられる時が一番幸せな時、家族が仲のいい時なんだよな・・・”すいかを切って輪になって食べてもらいたい。その思い一つだけなのです。
直売所を密着すると、本当に様々な方がすいかを買いに訪れていました。久しぶりに帰省し両親へ買って行く人、出産を控えた妻に夏の思い出を作るために買って行く人・・。すいかは、誰かと食べるもの。すいかの見え方が自分の中で大きく変わった気がします。大げさに聞こえるかもしれませんが、輪になってすいかを食べる時間こそが一番小さな社会形態である家庭のつながりを深め、思いやりの心を育み、戦争の心を生まない平和な世の中を作っていくのではないかと。
一方、“すいかばか”を支える妻のひとみさんは、サバサバしているように見えますが全てを受け入れてくれる優しい人です。夫の身勝手さに喧嘩になることもしょっちゅうだそうですが、“本当にばかだからなって思うけどポリシーがあるから”と、結局は夫の意思を尊重。息子さんたちも言っていましたが、この2人でなければここまですいか作りを続けてこられなかったのではと思います。取材中、いつもスタッフ分のおむすびを握ってくれ、それが本当においしくて・・・。とにかく、小林家は温かく、取材に出かけるというよりは実家へ帰る。そんな感覚で出向いていました。
今回、青森に住むひとみさんのお母さんに会いに行きましたが、実は、津軽弁が難しく事前に電話で取材のお願いをすることができず、撮影させてもらえるか分からないなかでの飛び込みロケでした。初めて家族3人で食べるすいかの時間は、私がその場にいることが申し訳なく感じるほど温かく穏やかな時間でした。帰省中、いつもより明るいひとみさんと嬉しそうな母、アイ子さんの表情がとても印象的でした。
すいかを家族で囲む時間。私にも高校生の息子がいますが、去年の夏は取材に行く度に
すいかをいただいたので、我が家でも家族でたくさんすいかを食べました。普段は自分の部屋にこもりがちな息子とも、“これ、おいしいね。すいかばかさんすごくない?”と、よく会話をしました。遠く離れた大切な誰かに、疎遠になってしまっているあの人に、すいかばかのすいかを持って会いに行きたくなる。1人でも多くの人にそう感じていただけたら嬉しいです。
番組情報
寿風土ファーム(株) 小林栄一
【電話】0551-35-3884
【Email】binokob@yahoo.co.jp
【Instagram】@kotobukihudo




