#214 人生を2倍 楽しんでおります!~全盲先生、暗闇ニモマケズ~

2020年5月9日(土)(テレビ朝日 放送) テレビ朝日制作 協力/文部科学省 総務省 中小機構 JAグループ

今まで見えていた生徒1人1人の顔が、見えない―。

28歳の中学教師を襲った突然の病。34歳で完全に視力を失い全盲に。天職だと思っていた教師を続けることができなくなりました。生きる意味を見失って、自殺も考えました。
それでも、10年余りかけて普通中学校の教壇に帰ってきたのです。

皆野町立皆野中学校で国語を担当する新井淑則先生(58)は、全盲で普通中学校の教壇に立つ数少ない異色の教師です。全盲のハンディキャップを感じさせない授業に驚かされます。黒板に漢字をすらすらと書き、声を聞いただけでどの生徒なのかがわかります。初めて出会った中学1年の生徒たちは「本当は目が見えるのでは?」と疑うほどです。
新井先生は「全盲教師ということで生徒が授業に不安を抱くようでは、そもそも教師失格!」が信念。視力を失ってから、再び普通中学の教壇に立つため
に凄まじい努力がありました。

全盲の教師を迎える学校側も、当初は手探りでした。前例のないことで、同僚教師たちもどうサポートしすればよいのか戸惑ったといいます。そんな中で、先に大きな変化が現れたのは生徒たちでした。新井先生と教室で触れ合う中で、自然に視覚障がい者へのサポートを身につけていきます。その変化を見て、教師たちも「全盲先生」が普通学校にいることで成長できる様々な点に注目していきました。やがて教師たちの認識も大きく変わっていったといいます。

「視覚障がい者のガイドは難しくない」「ちょっとしたサポートさえあれば一緒に過ごせる」
生徒たちの笑顔から伝わってくるメッセージには、私たちも人生を2倍楽しんで元気になれるヒントがあるような気がします。

編集後記

ディレクター:増田 亮央(フレックス)

 日脚伸びてきた三寒四温の2月中旬の埼玉県秩父郡皆野町。新型コロナウイルスの感染拡大によって臨時休校が懸念される中での取材。

 学校に入ると、大きな声であいさつ運動をする生徒。その隣にはヨシノリ先生。見えないヨシノリ先生の手を引いて歩く生徒の表情はニコニコ。私はこのシーンが印象的で鮮明に覚えている。正直なところ、私が生徒諸君と同じ歳の時に同じ経験ができていたらと羨むくらい生徒にとってヨシノリ先生との出会いはかけがえないものだ。

 「こんにちわ」授業が始まる。黒板の字をスラスラ書くヨシノリ先生。グループワークのため席替えをしても生徒がどこにいて、机がどの位置にあるかわかる。広い体育館の中、スリッパの音で私がどこにいるかもわかる。驚嘆は止まらない。生徒の心情や行動でさえも当ててしまうヨシノリ先生。生徒の声がこもっていることから、「自信がないから棒読みする」と指導する。「元気ですか?」に返答する生徒の体調などもわかってしまう。

 これは私が取材中に目にした光景の一部に過ぎない。この数々のノンフィクションエピソードは全盲のヨシノリ先生だからわかった、見えた「心の目」と言っても過言ではない。人々を光のように照らすその言葉は生きる活力を与える。自殺をも考えたどん底人生があったヨシノリ先生だからこそ伝えられることだ。

 また、このメッセージは生徒とヨシノリ先生が育む愛のキャッチボールでもある。演劇練習の際にヨシノリ先生が生徒に檄を飛ばそうと、生徒は拗ねて「ガイド体験しません」とは言わない。檄を飛ばしたのは「愛のムチ」という共通理解があり、「ヨシノリ先生が本気なら俺らだってやってやる」くらいの勢いを感じる。生徒としヨシノリ先生の間は強い絆で結ばれた関係性があると考える。

 この強い絆は臨時休校になってからも続く。ちちぶFMにて、ヨシノリ先生が生徒たちに向けて発信した「孤独を楽しんで欲しい」と言うメッセージだ。溢れんばかりの生徒愛はコロナニモマケズであった。

 本編では、生徒に毎年披露する「りんごの皮むき」を紹介したが、ヨシノリ先生にはその他にも「10円玉は長方形である」であるというネタで生徒を虜にする授業があるという。「10円玉は長方形である」という命題に対して正か誤の二択を問いかける。ほとんどの生徒は「バツ」というらしいが、少し時間を置くと「10円玉を真横から見れば長方形」という。このことから、学ぶポイントは「物事は一方向からだけ見ていたら本当のことはわからない。これは人もそうで、色々な面があって人。だから、見方を変えて見るのも必要だよ」とヨシノリ先生は言う。

 私たちが視覚から得ている情報が全てではなく、「見えないものを見ようとする」全盲のヨシノリ先生から教わる体験は共生社会の相互理解に繋がる。先生と生徒から学ぶことは多いと改めて感じた。そして、58歳のヨシノリ先生はあと2年弱で定年を迎える。それでも「生徒から学ぶことは多い」という。ヨシノリ先生の貪欲さを見習いたい。

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