“水郷”と称されるほど、清流と自然の豊かな大分県日田市。歴史情緒漂うまちで、明治15年に創業した醤油醸造の「まるはら」。社長の原正幸さん(67)のユニークな商品の企画・開発が、数年前から注目を集めている。その一つが、地元の特産品”鮎”を使った「魚醤」だ。
全国的にみても珍しい川魚の魚醤は、地元の養殖業者から規格外の鮎の活用法について相談を受けたのが誕生のきっかけ。県と共同で研究に取り組み、試行錯誤の結果、4年間かけて完成。こだわったのは、醤油で最も大事な味と香り。4か月間寝かせて濾過した魚醤は、独特の臭みがなく旨味が強いのが特徴だ。
見本市の出展などで鮎魚醤は徐々に話題を呼び、東京の高級レストランなどからも注文が相次いだ。さらに販路拡大とともに、フランスの三ツ星レストランとも契約。どんな料理にもマッチする実力を海外のシェフも高く評価している。
鮎魚醤の開発後、2年半かけて、地元の地鶏のモツを使って、「肉醤」を作り上げた。そして、新たに鮎魚醤をベースにした出汁醤油も開発し、この醤油をミラノ国際博覧会へと売り込んだ。
既成概念にとらわれず、地元の食材にこだわり新しい味を探求する。常に世界市場を見据えた老舗醸造蔵の挑戦を追う。
編集後記
ディレクター:三浦 大和(大分放送)
私は、地元に根付いたお店の強さを、「まるはら」から感じました。お盆には、多くの帰省客が訪れ、一升瓶を手にレジへと並びます。故郷を離れても、地元の味が舌に染みついているようでした。そこまで醤油に愛着を持たせるほどの魅力的な商品を出しているのです。また、原社長自身もとても気さくで、周りの意見を尊重します。そんな社長だから、各方面から相談が寄せられ、出てきた意見には素直に向き合っているのです。その姿勢が日田市で愛されているのだと思います。
一流シェフ達から認められる「鮎魚醤」ですが、原社長は「やってみたら、たまたまできて、たまたま世界に認められた」と話します。しかし、その陰には着実な努力がありました。普通の魚醤だと匂いがするから、良い香りの魚醤にできないかと、酵母を変え、仕込み方を変え実験。できが満足できるほどのものになり、見本市などで注目をされると今度は、一流レストランや世界中のレストランへと足を運び営業に回ったのです。きっかけは「たまたま」であったかも知れませんが、機会を逃さず行動した結果が、現在の鮎魚醤のブランドを生み出したのでしょう。