
「おきゃく」と呼ばれる高知の宴席を盛り上げる土佐芸妓。多くの財界人や政治家が、芸妓とともにお座敷遊びを楽しんだのは、今となっては昔の話。その舞台となる料亭は、バブルの崩壊などで次々と暖簾を下ろし、同時に芸妓、お座敷遊びは廃れていった。そんな時代の流れに逆らうように、今から10年前、1軒の老舗料亭が復活した。復活させたのは初代店主の孫、濱口実佐子さん。祖父が育ててきた土佐のお座敷文化を残すため、料亭を買い戻し、1から芸妓を育てた。

実佐子さんには、もう1つの想いがある。それは「よさこい祭り」。毎年全国から多くの踊り子が集まる高知を代表する夏の祭典だが、よさこい祭りを作ったのも祖父八郎さん。このように高知を代表する2つの文化と濱長は、切っても切れないつながりがあった。料亭復活から10年。実佐子さんはこの高知の2つの文化が1000年続くことを願い、自らが率いるよさこいのチームの踊りのテーマを「千歳鶴」とした。

女将実佐子さんには、咲良さんという娘がいる。中学生の時から舞妓として踊り、よさこい祭りでは、チームのインストラクターとして母親を支えている。2つの文化を後世に伝える若い世代として期待される咲良さんだが、次の女将として濱長を継ぐのを拒み続けている。
残し、守っていかなければならない土佐の大切な伝統文化。それに向き合う母と娘の姿を追う。
編集後記
ディレクター:田村貴志(高知放送)
「はし拳」や「べく杯」と呼ばれる高知のお座敷遊びは、一昔前まで高知では酒の余興として親しまれていました。祖父の家で宴席があると、よく余興ではし拳が行われて、喧嘩ごしのかけ声が、子供心に怖かったものでした。しかしこの2つの代表的な遊びは、若い世代を中心に高知でも知っている人は少なくなっています。
番組では、この土佐のお座敷文化と、同じく60年以上の歴史を持つ高知の伝統文化の1つ、よさこい祭りを取り上げました。取材対象となった料亭濱長は、2つの文化に深く関わっており、女将の濱口実佐子さんが先頭に立って、残し、守る活動をしています。
彼女の熱い想いを見てもらいたいというのが番組のポイントの1つですが、もう1人、実佐子さんの強烈なキャラクターに隠れていた一人娘、咲良さんの想いを感じてもらえたらと思います。「濱長の女将にはなりたくない」とインタビューで堂々と“宣言”してしまう等、「親子で力を合わせて伝統を守っています」というにはほど遠いですが、中学生の時から舞妓として舞台に上がっていた彼女には彼女なりの伝統文化への強い想いがありました。近そうで遠い、遠そうで近い親子関係を感じてもらえたらと思います。