熊本県の中心部から車で約2時間の「天草市」。ここには、2018年7月世界文化遺産のひとつとして登録された﨑津集落があります。日本独特のキリスト教信仰が育まれ、集落の中心には、静かに﨑津教会が佇んでいます。

そんな天草の風景をきっかけに東京から帰郷を決めた女性、井上ゆみさん(41)。現在、駆け出しのボタン作家です。ゆみさんは、情報量が乏しい天草を嫌い、”服飾関係の仕事をしたい”と、夢を追いかけ、上京しました。ところが、34歳の時…。久しぶりの帰省で「﨑津教会」を訪れます。その時に見た教会の佇まいに、涙が止まらなくなった、ゆみさん。自身の在り方を重ね、”天草でものづくりをしたい”と強く思ったのです。

帰郷したゆみさんは、地元を再発見するため、地元の観光協会に就職。そこでボタン作りのきっかけになる”ある素材”と出会います。それは、ボタンの原料に使っている、透き通るような白い陶石「天草陶石」です。天草陶石は、天草市内で産出され、生産量は、国内陶石生産量の約8割を占めています。現在、有田焼や波佐見焼の原料として使われ、焼き物にすると、硬く濁りのない白色になる特長があります。

ゆみさんは、自宅の一室で、黙々と赤や青の色鮮やかにデザインしたボタンを作ります。しかし、自分の思い描くボタンを作る事は、簡単にはいきません。窯元の職人らに教えてもらいながら、独学でボタン作りを行っている毎日。あまりにも作品作りに没頭してしまうため、タイムスケジュールで自己管理。そんなゆみさんが、ボタンで表現するのは、天草で出会った景色や人々、文化です。毎日、天草のどこかに出かけ、新たな発見を楽しむその生き方や熱意あふれる制作活動を追いました。
編集後記
ディレクター:藤本聖子(熊本放送)
私が主人公の井上ゆみさんに初めて会ったのは、自宅にある5畳の「ボタンの部屋」。そこで話を聞きながら、特に印象的だったものが、壁に貼られたタイムスケジュールでした。一人で作っているのだから、気ままに自由に制作しているのではないのかなと、思い込んでいた私。「なぜ作っているのか?」と尋ねました。すると、「時間を忘れて作ってしまうから体調管理のためです。モノづくりを、年を重ねても続けたいので」。私にとっては、予想外の答え。寝食を忘れ、没頭する程のボタン作りとはどういうものか。「鮮やかな天草ボタンを作る工程を通して、ゆみさんが天草をどう感じているのかを、そばで見せてほしい」とお願いしました。
毎日、夕方が近くなると、一人か、愛犬と一緒に車で天草のどこかに出かけます。お決まりは、とある海岸のベンチらしいのですが、時には車のナビゲーションシステムにも載らないような、けもの道をうろうろすることもあります。その時の必須アイテムが、一眼レフカメラ。(うっかり忘れた時は、携帯のカメラで代用)季節や時間ごとに変化する海の色などをたくさん撮っています。「撮影」という行為で、自身の脳にそのシーンを焼き付け、ボタンの絵付けの時に、デザインがふっと降ってきて描いていると話します。
「ゆみさんが好きな天草の風景をVTRでどう見せるか」
撮影や編集では、その部分を特に注意しながら進めました。撮影に関しては、ラッキーなことに、快晴が続きました。熊本の西に位置する天草市の夕陽は、町おこしになっている程、絶景のポイントが数多くあります。今回、夕陽が海岸線に沈むという珍しい映像も撮ることができました。ゆみさんが、普段の天草暮らしの中から感じ表現したボタンの絵柄と、カメラマンが撮影した天草の美しく、のどかな風景を一緒に見て頂けると有難く思います。
番組情報
◆天草ボタン
「+botão (ボタオ)」
【メール】amacusa.botao@gmail.com
【H P】http://amakusabotao.strikingly.com/
◆井上ゆみさんが通っている窯元
「高浜焼 寿芳窯(じゅほうがま)」
【住 所】熊本県天草市天草町高浜南598
【電 話】0969-42-1115
【H P】www.takahamayaki.jp
◆天草ボタンを使った帆布の洋服「SEUVAS(ソウバス)」
「WIRED(ワイヤード)」
【住 所】岡山県倉敷市児島下の町5-3-19
【電 話】086-474-8488
◆帆布を製造している会社
「タケヤリ」
【住 所】岡山県倉敷市曽原414
【電 話】086-485-1111
◆天草ボタンの取り扱い店
「海月(くらげ)」
【住 所】熊本県天草市河浦町﨑津457
【電 話】0969-79-0051