#171 働く馬の伝道師

2019年5月4日(土)(テレビ朝日 放送) IBC岩手放送制作 協力/文部科学省 総務省 中小機構 JAグループ

切り出した丸太を、山から運び出す―。

 かつて大型機械が登場する前、それを担っていたのは働く馬たちでした。
馬と、馬を巧みに操る職人・馬方(うまかた)が共同で行う木出し作業「馬搬(ばはん)」。この「地駄曳き」とも呼ばれる仕事に従事している馬方は、今では全国で10人足らずといわれています。
今回の主人公は、そんな馬搬の馬方・岩間敬さん(40)。彼は言います。「馬を介していろいろなことが起こる。そんな馬が面白いんです」と。


作業用の林道が少なく、急斜面が多い日本の山の多くは、機械での運搬作業が難しいと言われています。しかし、機動力の高い馬なら、そんな現場からの木出しも可能。山を傷つけないことから、里山の保全という面からも注目が集まっています。
番組では、そんな馬搬の現場をお伝えします。

「右」「左」「バック」「ちょっと待って」…
まるで人の言葉を理解しているかのように、馬は馬方・岩間さんの指示に応じて、巧みに丸太を運び出していきます。まさに人馬一体の仕事の様子に、目が離せません。「馬のことを理解しないと、馬は馬方に手綱を預けられません」彼は、そう語ります。

岩間さんは、馬搬をはじめとした「働く馬」を育てています。その調教では、普段見られない馬の表情が!馬自身がトレーニングを重ねることで、その馬の活躍できる場が広がるのだと、岩間さんは考えます。

番組の舞台は岩手県遠野市。全国的にも「民話の里」として知られています。古くから馬の繁殖地でもある遠野には、馬にまつわる昔話も語り伝えられています。人と馬が共に生きる…。岩間さんの馬搬は、
さながら現代に残る民話の世界。


馬は、面白い。
たくましい「働く馬」。新たに馬搬を目指す若者の奮闘ぶり、そして人と馬のつながり。圧倒的な馬の世界に触れてください。

編集後記

ディレクター:鹿野真源(IBC岩手放送)

今回の日本のチカラは、馬力で山から丸太を運び出す「馬搬(ばはん)」と「働く馬」がテーマです。岩手県遠野市の岩間敬さん(40)は、今では全国で10人足らずという馬搬の馬方(うまかた)です。馬を使って運び出した丸太を製材・販売する傍ら、馬の調教、馬方の技術指導を続けています。

岩間さんの住む遠野市は、民俗学者・柳田國男の『遠野物語』に代表される「民話の里」です。今の80代90代は幼い頃、囲炉裏端でおじいさん、おばあさんから昔話を聞いて育ったといいます。遠野に伝わる民話の中には、馬に恋した少女のお話も。

馬と共に働く岩間敬さんの撮影中、私の心の中には、いつもこの少女がいた気がします。なぜ、彼女は馬に恋をしたのか?彼女はどうやって、馬と心を通わせたのか?人馬一体の馬搬に驚きながら、馬と人の心の交流を思わずにはいられなかったのです。

馬搬をご覧になって、馬をただの使役動物として扱っているようにお感じになる方もいるかもしれません。しかし、岩間さんはほとんど鞭すら使いません。それはきっと、彼が痛みや恐怖で馬をコントロールしていないからです。「その仕草や表情で、馬のことが分かる」と彼は言います。彼と馬の間で、何がしかの交換があることは間違いありません。

「馬が好きですか?」 安易な私は、そう彼に問います。
「好き嫌いを思ったことはない。ただ、馬と仕事するのが面白い」彼はそう答えます。決して「好き」と言わない彼に、戸惑った時期もありました。

しかし、編集を終えて、今はその気持ちが少し分かる気がします。優しいから、正直だから、まじめだから、そして、面白いから・・・。人が、人や何かを好きになる時、「好きだから」好きなのではなく、もっと具体的な理由があるはずです。きっとそれが、岩間さんにとって「面白い」だったのだろうと、私は考えています。結局それって「好き」なんだと思うのですが・・・。

この番組には、蹄で地面を叩き「気合十分」をアピールする馬、凍った山肌をおそるおそる登る馬、「もっと草をくれ」と催促する馬、いろいろな場面で表情豊かな馬が登場します。それを撮影してきて、今、私は「馬には心がある」という確信に近いものを持っています。昔話の少女のように恋するまでには至りませんが、馬からたくさんの驚きと感動を受け取ってきました。
番組をご覧いただく皆さんにも、同じ発見をしてもらいたいと思い、ナレーションや字幕は少なめ、その分一つ一つの映像の力を全面に押し出して編集しました。

「馬、すごい!」
「馬と生きる人間も、すごい!!」

そんな感動を味わってもらえたなら、ディレクターとして最高の喜びです。

番組情報

◆伝承園
【電 話】0198-62-8655

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