
日本有数の米どころ宮城県大崎市の上伊場野地区だけで古くから育てられてきた伝統野菜、上伊場野芋(かみいばのいも)。粘り気と甘みが強く、ねっとりとした食感が特徴で、収穫量がきわめて少ないことから「幻の里芋」と呼ばれています。
栽培は種芋の植え付けから収穫まですべて手作業。かつては地区の20軒ほどで栽培されていましたが、現在はわずか数軒。ほとんどが家で食べる分しか作っていません。

「誰もやらないならチャンスなんじゃないか」
この上伊場野芋の地域ブランドとしての価値に目をつけたのが若手農家の福田翔太さん(32)。4年前まで趣味のスキーに没頭し、フリーター生活を送っていた彼が、「幻の里芋」の希少性と独自性を付加価値と捉え、里芋農家に転身したのです。
祖父の富雄さん(82)はこの道60年の大ベテラン。「芋の師匠」として、孫の里芋作りを静かに見守っています。

翔太さんの当面の目標は栽培面積を現在の4倍に増やすこと。実現すれば兼業農家ではなく、里芋の収入だけで食べていけると意気込みます。生産性を上げる取り組みは、翔太さんの母校、名取市の宮城県農業高校でも始まりました。上伊場野芋が他の土地でも育つのか。去年、高校の畑で栽培した実験では、まだまだ課題は多いものの収量拡大に向けた光が見え始めています。

「食の文化財」とも言われる伝統野菜、地域に根ざしたその土地ならではの食材は、地域創世に繋がる何かしらの手がかりを与えてくれます。
「幻の里芋」に夢を託した若手農家とそれを支える家族の1年に密着しました。
編集後記
ディレクター:延沢 勇(プライド・トゥ)
話を聞いたのは、まちの小さなお菓子屋さんでした。
早速、農家さんへ訪問するとあたたかく迎えてくれたのが福田家の皆さん。壁のないアットホームな家族の雰囲気が印象的で里芋栽培に取り組む主人公(翔太さん)と彼を支える家族愛を描きたい!というのが私の取材の始まりでした。
主人公の翔太さんは興味を持ったものにはとことん突き詰めるタイプ。里芋栽培やスキーの様子をGOPROで撮影、編集してネット配信したり、今後の目標でもある福田ファーム設立用のロゴをデザインするなどエネルギー溢れる青年です。家族は彼を全面バックアップ。種植えや収穫は家族総出で行います。お昼はホットプレートを囲んでみんなでやきそばパーティ。そして、昼寝。
そんな何気ない日常生活で、お互いを助け合い、尊敬しあう姿が福田家にはあります。
幻の里芋に夢をかけた主人公を通して家族の絆を感じていただければ幸いです。