
熊本の「トマト」は生産量全国1位を続けて20年以上。特に10月中旬から出荷される冬トマトは「熊本産がトマトの味・価格を決める」と言われるほどだ。県内最大の産地が県南部の八代平野。奥行き100mもあるビニールハウスが干拓地に連なる景色は圧巻だ。また、減農薬栽培のためハウス内で夜間に灯る「防蛾灯」の黄色くやわらかな光が広がる眺めは秋の風物詩となっている。ここで収穫されたトマトは、国内最大級の選果場で厳しい品質検査を受け、「はちべえトマト」というブランドで全国へ出荷される。
実はここ数年、トマトの市場への販売価格は前年を下回っている。栽培面積の増加や産地の生産能力の向上、輸入トマトの増加によって、市場は供給過多の傾向にあるのだ

この現状を見つめてきたのがJAやつしろ職員・西郡義博(43)さん。はちべえトマトを全国へ送り出す役割を担う。加えて、他県からも注目される「JAグループくまもと青果物コントロールセンター」のメンバーで、熊本の野菜・果物の生産販売を強化、より多くの消費者へ届けられるよう取り組む毎日だ。
トマト農家の千代永博昭(59)さんは、父の代からのトマト栽培を受け継ぎ、
安全安心で、おいしいトマトをつくるべく努力の日々。市場価格の低迷を打破すべく関東関西の市場へ視察にも出かける。そこには八代のトマト栽培を未来へつないでいきたい熱い思いがあった。
新たな局面を迎えた日本一のトマト産地で、奮闘する二人の日々を追った。
編集後記
ディレクター:浅木 真由美(オフィスユニオン)
県内最大級のトマト産地・八代平野は九州でも屈指の農業地帯。干拓地に広がる大型のビニールハウスは、区画に合わせて整列しており、ドローンでの撮影で改めてその広さと規模の大きさを実感することになった。
「はちべえトマト」は知っていたものの、減農薬栽培の取り組みのひとつが夜間に灯る「防蛾灯」であることは恥ずかしながら全く知らなかった。撮影におすすめのスポットを西郡さんに紹介してもらい、今回の幻想的な夕景の撮影に成功した。
西郡さんが取材の途中(残念ながら撮影できていなかった…)にこぼした「トマトは夏という概念を崩したい」という言葉を番組本編の冒頭に活用。少しでも多くの人に冬トマトのおいしさを知ってもらいたいと思う。
収穫が始まったばかりの10月中旬は、実に「割れ」が入ってしまうトマトも多く千代永さんは選果場へ運ぶ前のチェックに余念がない。割れてしまったトマトは出荷できず、実は撮影スタッフで大量にいただいて帰ったのだが、おすそわけをしたみんなから「今まで食べたトマトでいちばんおいしかった」という言葉をもらった。おいしさはもちろん、なぜか懐かしさも感じるその味は、「昔ながらの自然の味がして、おいしい」と評判を呼んでいるそうだ。
「エスクレオサイドA」というこれから注目を集めそうな成分も味方にして、八代産冬トマトの消費拡大に期待したい。そして、熊本県の人気者くまモンの赤いほっぺを見たら、ぜひ熊本の冬トマトを思い出してほしい。