#296 全盲先生から生徒へ 〜ラストメッセージ〜

2022年4月23日(土)05:20~05:50 (テレビ朝日 放送) テレビ朝日 制作 協力/文部科学省 総務省 中小機構 JAグループ

埼玉県皆野町で、町立中学校の教壇に立ち続ける
全盲の国語教師がいます。
新井淑則(よしのり)先生(60)は、両目の視力を失いながら普通中学で授業を受け持ち、これまで1000人以上の生徒たちと歩んできました。
大学卒業後、念願の教師になった新井先生に突然の悲劇が襲ったのは28歳の時。右目に網膜剥離を発症し失明。34歳で左目も失明し視界は閉ざされました。一時は自殺も考えましたが「もう一度、中学校の教壇に立ちたい」と、点字の習得や盲導犬との歩行訓練を積み重ね、9年かけて復帰を果たします。

国語の授業では、黒板にすらすらと字を書き、声だけでどの生徒かが分かります。「目が見えないのに本当にすごい!」「一緒にいて飽きないし楽しませてくれる」…生徒たちも心から信頼しています。ヨシノリ先生が大切にしているのは生徒の声を聞くこと。見えないからこそ見えるものがある…。受験のこと、未来のこと、思春期の悩みと向き合ってきました。

60歳になり、まもなく退職のとき。時にサポート役を買って出てくれた3年生と一緒に卒業することに。卒業生の中に、ひときわ見守ってきた、左手に障がいがある男子生徒がいました。「教職をかけても守るのが私の使命」…そう誓ったヨシノリ先生が伝えたのは「障がいを隠さないこと」…。男子生徒は「左手のこと」「時には手伝ってほしい」ことを同級生みんなに伝え、真っ直ぐに学校生活を送ってきました。3年生になって書いた作文にはこう綴られています。「人の優しさに気づいたとき、自分が幸せであると感じます」。

新型コロナが学校生活を襲っても、ヨシノリ先生と生徒たちは、体育祭や学年集会など、精一杯思い出を紡いできました。そして迎えた最後の授業…。新井先生から生徒たちへのラストメッセージ…。

「勉強より心が大事なんだよな…」。
幾度の苦難を乗り越えた全盲先生と、生徒たちの歩みを見つめます。

編集後記

ディレクター:猿渡研二(フレックス)

私がヨシノリ先生の取材をはじめたのは去年の4月。
目が見えないのに、瞳を向けて話してくれるのが印象的でした。

「見えないことを相手に意識させないようにしているんです」。

はじめは、「どうして黒板に字が書けるんだろう」「どうして声だけでどの生徒か分かるんだろう」と驚きの連続でした。おそらく、中学に入学して間もない生徒たちも同じように感じたのだと思います。でもずっとヨシノリ先生と過ごしていくうちに、生徒たちにとって、国語の授業も、盲導犬リルと歩く姿も、ごくあたりまえの学校風景の1つになっていました。「普通の先生と変わらない」でも、「必要なときに自然と手を差し伸べる」。日常の中に、人を思いやる気持ちや、優しさが溶けこんでいました。

60歳になり定年の日が近づいてきても、ヨシノリ先生の情熱が薄れることはありませんでした。「ヨシノリ先生は根っからの教師なんですよ」かつての同僚でもある校長先生の言葉は、まさにその通りだなと思いました。

新型コロナの影響で、就学旅行は中止になり、体育祭は保護者なしでの実施など、制約の多かった学校生活。そうした中でもヨシノリ先生は、生徒たちを楽しませる授業を模索し続けていました。今回の番組では盛り込めませんでしたが、印象に残る場面があります。ヨシノリ先生が密かに練習を重ねていた琵琶を、生徒の前で披露した授業です。作務衣姿で教壇に座り「平成の琵琶法師でございます」というつかみの一言と演奏で、生徒たちの心をガッツリとつかんでいました。教科書だけでは伝わらない、ヨシノリ先生だからできる「記憶に残る」授業でした。

取材しながら感じていたこと。それは、「ヨシノリ先生と過ごす何気ない時間や、交わした言葉が、生徒たちの背中をそっと押して、前に進むチカラを与えている…」ということです。そうした瞬間を1つでも感じてもらえる番組にしたいと、制作に臨みました。

番組のラストは、生徒たちの卒業、先生の定年ですが、すでにみんなが新たなスタートを切っています。ヨシノリ先生は、高齢者や若者が集える地域の居場所「リルの家」の完成に向け、一歩一歩進んでいます。ヨシノリ先生の姿が、人生をもっと楽しく、豊かに生きたいと願う人たちへのエールになればうれしいです。そしてヨシノリ先生、生徒たちと出会えたことに心から感謝します。

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