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長野県佐久市に住む元小学校の教諭、有坂栄康(ありさか・ひでやす)さん54歳。2016年に難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、体の自由と声を失いました。現在は365日、24時間体制の介護を受け、妻・麻紀(まき)さんに支えられながら懸命に生きています。
かつては体育の教師として30年近く児童と向き合ってきた栄康さん。ALSの診断を受け、一度は「すべてを投げ出したい」と絶望したこともありました。次第に体の自由を奪われ、「人工呼吸器を付ければ声を失い、付けなければ生き続けられない」という残酷な選択も突きつけられます。しかし、悩んだ末に選んだのは、「声を失っても生きる」ことでした。
人工呼吸器を装着後、栄康さんは「ALSだからこそできることがあるはず」と、自分の思いを誰かに伝えたいと強く思うようになります。パソコンを使って視線だけで文字をつづり、183ページに及ぶ著書『命は無常』を書き上げたほか、パティシエになるのが夢だった麻紀さんの焼き菓子店の開店も支えました。
そして発症から7年、栄康さんは再び教壇へ。栄康さんの思いを多くの人に届けたいと、初めて担任したクラスの教え子たちが声をかけあい、子どもたちを前にした「命の授業」を実現させたのです。「最も恐ろしいのは、会話ができなくなること」。声を失った栄康さんに代わって教え子が、難病を生きる中で突きつけられた現実をありのまま子どもたちに伝えました。病が進もうとも「人に尽くしたい」と願う栄康さんの、いまを懸命に生きる姿を追います。
編集後記
ディレクター:丸山広大(信越放送)
「ALS」――私にとって、この難病の患者さんと向き合うのは初めてのことでした。
栄康さんの日常を目の当たりにして、一番驚かされたのはそのコミュニケーション方法でした。視線読み取り装置でパソコンに文字を打ち込み、読み上げる――。栄康さんはこの作業をとてもスムーズにこなしますが、目への負担はかなり大きいといいます。口頭での会話に比べると、いくら操作に慣れていても圧倒的に時間がかかります。インタビュー中、質問への答えが返ってくるまでに2分以上かかることもあります。その間に流れる、静かな時間。番組では、そうして一つひとつ丁寧に紡ぎ出される栄康さんの言葉の重みを描きました。取材は体に負担がかかったはずです。それでも「自分の思いを伝えたい」と、いつも前向きに取材に応じてくださった栄康さんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
表情を作ることが簡単でない栄康さんを前に、私は取材当初、「怒っているのだろうか」と不安を抱えることもありました。しかし、取材が終わるといつも、「また来てね」とパソコンで読み上げ、少し口角を上げてくれる栄康さん。その表情が、私は大好きでした。また、取材を通して、栄康さんが行ってきた「命の授業」や講演会のお話を聴く機会もありました。それは私自身にとっても、命の尊さや、自分の命をより一層大切にしようと深く考えるきっかけになりました。今向き合えている仕事や趣味に思う存分打ち込めることが、どれほど幸せなことか――。
日々の小さな幸せを実感することの大切さを教わり、たくさんの勇気をいただいてきました。
最後に、取材の中で出会った素敵な味をご紹介させてください。栄康さんをそばで支える麻紀さんが作る焼き菓子は、どれも絶品です。特におすすめなのが、優しい自然な甘さのパウンドケーキ。機会がありましたら、ぜひ「幸せの青い豚」へ。
番組情報
有坂栄康さんブログ
有坂栄康さんインスタグラム @ariichi19971010




